長引くコロナ禍の中、思うようにサロンに足を運ぶことができない方も多くおられるかと思います。
1年半以上も続くこの状況を振り返りながら、あらためてサロンでサービスをご提供する中で感じたことや、美容の役割について自身が考えたことをお伝えできればと思い、この文章を書いています。
少し長くなりますが、お時間のあるときに読んでいただけたら嬉しいです。
【日常での気付き】
髪を整えることは、普段の生活の中で積もった不要なものを整理して、また新たな気持ちでスタートするための準備。
言うなればリセットです。
この「美容を通じて髪型も気持ちも整える」という考え方は、omotesando atelierが日頃から大切にしているテーマです。
コロナが続く中、当サロンをご利用いただいているお客様からも、やはりかつての日常よりも溜め込むものが増えてしまっているというお話を多く伺います。
自分自身、日々変わる状況への対応に追われていたこともあり、当初は、終わりが見えない非日常的な生活がもたらしたものだから、今は我慢なのかな、と漠然と考えていました。
そんな中、サロンでの仕事を通じて、髪だけではなく気持ちの面ですっきりした、解放された、というお声を、以前よりも多くいただくようになったことに気付きました。
またその気付きは、このような状況下だからこそ美容にできることはなんだろう、とあらためて考えるきっかけとなりました。
【スタイリングについて】
スタイリングとは、ひとことで表せば髪を美しく整えることです。
そのイメージや方向性は、お客様それぞれで異なります。
今日スマホの普及により、多くの情報が手元で手に入るようになりました。
こと美容においても、トレンドやスタイルに関する情報がさまざまなメディアから日々発信されています。
先が見えない日々の中で、とにかく「今」を変えたい。
その手段の一つとして、トレンドにあわせて髪型を変える。
それが気持ちのリセットにもつながっていけば良いのですが、瞬発的な気持ちの盛り上がりと引き換えに、トレンドという新しい荷物が増えてしまう。
「髪を整える」という意味では同じプロセスながら、やり方によってお客様の気持ちの面で結果が変わってくる。
スタイリングを考えていく中で、自身が掲げる「髪型とともに気持ちを整えること」の意義や、それを実現するための美容の形はなんだろう。そんな疑問が沸き起こってきました。
【穂高養生園で感じたこと】
サロンをオープンしてからの6年半を振り返る中で、自身に大きく影響を与えた事柄のひとつ、それが 昨年まで定期的に行わせていただいていた穂高養生園でのカットセッション「oneday」です。 穂高養生園を訪れるお客様の目的は、ご自身のさまざまな不調を改善し、調子を戻すこと。新たなものを取り入れる、というよりは今不要なものをみつめて、それを整理していくことです。
自然に囲まれた空間で、木々のざわめきや鳥のさえずりの中、ハサミの音が静かに、リズミカルに響く。ただ髪を切るだけなのに、呼吸が楽になったり、頭の中がすっきりしたり。お客様の髪に触れ、ハサミを媒体としてそれを感じるからか、自分自身にもそのすっきり感が伝わり、驚いたことを思い出します。
その経験を踏まえてあらためて感じることは、特に現在のような状況下において、onedayのような美容が、お客様が求めておられることとリンクするのではないかということです。
【美容にできること】
髪を整える目的。
それは、魅力的な最新のトレンドを取り入れたスタイルにすることなのか。
または、自分らしい自然な美しさに整えることなのか。
ひとつ言えることは、髪型とともに気持ちをすっきりとさせたい、という思いはどのお客様も共通であるということです。
私は、美容という仕事を通じて、一人でも多くのお客様に幸せをお届けしたい。
毛先を整えて積み重なったものを軽くし、美しさのみならず気持ちもすっきりと解放して差し上げたい。そして、明日からの日々をまた自分らしくスタートする元気を持って帰って欲しい。
見た目を大きく変えることで、気持ちも変えたい。
その思いには共感できますし、ましてや否定するものでは決してありません。
ただ、日々をリセットするための美容は、トレンドを取り入れる方法以外にもあることを多くの方に知っていただきたい。
そして、できることならば、このような世の中でサロンを訪れるすべてのお客様に、すっきりと解放されたお気持ちでお帰りいただきたい。
自分の中にある美容に対する考えを整理していく中で、omotesando atelierが目指すゴールも垣間見えてきました。
それは、穂高養生園のonedayの体験を、表参道のサロンでも提供していくこと。
限定的なカットセッションではなく、日常的なonedayを提供したい。
厳しい世の中にあって、美容にこそできることは、きっと自分が今思う以上にたくさんある。
その思いを胸に、これからもひとつひとつ、丁寧に取り組んでいけたらと思います。